初恋のクローバー
「それより和哉くん、来週新人戦だよね?」
「頑張って」と見えるわけもないのにガッツポーズをしていると、「……うん」と力ない返事が返ってくる。
「和哉くん?どうしたの?」
彼らしくない声に疑問符を浮かべていれば、
彼はポツリと言った。
「………俺に、できるのかな」
「え…?」
初めて聞いた。
いつも穏やかな彼の、弱々しい声。
「俺、中学の頃から陸上やってたんだ。
でも、中学では部員も少なかったし、コーチもいなくて……高1の時も同じだった。
だから高2になって新しいコーチが入ってきた時は、嬉しくていっぱいだった。
初めての大きな大会は緊張よりも楽しさの方が勝ってて……だから県総体は自然体の俺でやれたんだ」
「うん……」
「でも、今は違う。県総体で優勝した俺に周りが注目してるし、部員も、コーチだって期待してる……そんな風に考えてたら、インターハイでは本来の自分の走りが一気にできなくなったんだ」
「そうだったんだ……」
和哉くんのあの走りは、プレッシャーからだったんだ……。
「でもっ、練習を毎日してればそれが自信になるよ!」
「うん、ありがとう……」
「和哉くん……」
電話越しで悲しそうに笑って話した和哉くんに、私はそれ以上声をかけることができなかった。