初恋のクローバー
「和哉!聞いてんのか?」
「えっ、あぁ、ごめん……」
「ったく、しっかりしろよな。お前はうちの期待のエースなんだから」
「………うん」
高校新人戦、当日。
試合前のアップを各自でしながら、みんなは気合を入れている。
戻って行くガクの後ろ姿を見たあと、俺は1人
空を見上げた。
「はぁ…………」
我ながら、情けないこと言っちゃったな……。
試合も直前だというのに、頭に浮かぶのは彼女のことばかり。
1週間前。
いつものように彼女と電話をしていた時に、
俺はつい弱音をはいてしまった。
あのインターハイの走りを思い出して、おじけづいてしまった。
彼女の明るくて優しい声に、気づけば心の内の不安を口に出してしまった。
「はぁ…………」
あの日から、気まずくて彼女には電話をしていない。
電話をしたら彼女が俺を情けないやつだと思っていることがわかってしまいそうで、できなかった。
風結からよく思われたいなんて、俺は自分勝手なやつだな……。
風結の、声が好きだ。
部活で疲れて帰ってきても、彼女と話すだけで不思議と元気が湧いてくる。
風結が紡ぐ、言葉が好きだ。
『お疲れ様』と、いつも優しい声で言ってくれる彼女の言葉に、不思議と笑みがこぼれてくる。
彼女は、突然に俺の前に現れて、あっという間に俺の心にすみついた。
彼女と電話をし始める前の時間に自分が何をしていたのか、今ではもう思い出せないほどに。