初恋のクローバー


「……ずっ…」


治まった涙の痕を窓から入る外気にさらしながら、真っ白な天井を仰ぎ見る。


「もう、帰ったかな……」


どうやってここまで来てくれたんだろう。


電車、バス、新幹線。


どれもお金がかかりそうな交通手段。


「帰って……なんて、最低だ…」


会いたいと思った。


今さら会えないと思った。


矛盾している心を持て余しているうちに、彼女は目の前に現れた。


信じられなかった。


想っていた彼女の姿が、突然に目の前に現れるなんて。


都合のいい夢でも見ているのかと思った。


夢じゃないのなら、彼女はなんでここにいるんだと思った。


まさか、もう俺の病気のことを知っている?


もしかして、病気になった理由も全て、わかっている?


だとしたら、彼女はここに来て、俺に何を言おうとしているのだろう。


嫌な考えばかりが思い浮かんで、しばらくそのまま動けなかった。


「でも、ガクが言ってくれてよかったのかも…」


きっと自分からだったら、もっと辛かった。


彼女に全てを伝えられていたのかも、わからない。


彼女と話しているだけで、自己嫌悪に飲み込まれそうだった。


自分がしてしまったことの重大さを改めて感じて、息が苦しくなった。


『だから手術は、するつもりはないんだ』


そう伝えた時の、彼女の顔が忘れられない。


瞬間に彼女の頬をつたったあの透明のしずくが、いつまでも頭から離れない。

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