初恋のクローバー
『廣谷和哉くんへ。
さっきは色々言っちゃってごめんなさい。
和哉くんのことを理解しないで自分勝手な気持ちを押し付けてしまったこと、後悔しています。
頑張っても、報われないかもしれない。
対等ではないけれど、その気持ちは私も知ってるよ。
頑張って、頑張って、頑張って。
それでも報われない未来が待っているかもしれないとわかっていて、今の自分の全てをかけるのは難しいと思う。
だから、和哉くんの「怖い」っていう気持ちは
普通のことなんだよね。
大好きな陸上ができなくなるかもしれない。
そんな、先の見えない未来が怖い。
私だって、同じ病気になってたら絶対に怖いと思う。
でも、それでもやっぱり私は、
和哉くんにまた走ってほしい。
和哉くんの走りが好き。
和哉くんの走りが、私にとっての理想で憧れ。
前に電話で、私はそう言ったね。
でも、それだけじゃないの。
私はただそれ以上に、
和哉くんの走る姿が好きなんだ。
走ることが好き。
全身でただそれだけを伝えてる君の走る姿が、私は大好きなんです。
だから私は、また君に走ってほしい。
君が未来のために今をかける意味がないと言うのなら、私が君の未来になりたい。
私が、君がまた走り出すための、
意味になりたい。
今日、和哉くんの言葉を聞いて、
私は周りにばかり捕らわれていた私じゃなくてただ走ることが大好きだった私を思い出すことができました。
私はもう1度、走ろうと思います。
また陸上部に戻って、ただ走ることが大好きだった自分をもう1度好きになろうと思います。
君のおかげで、私はまた戻ろうと思えることができた。
私が陸上に戻る意味を、君が作ってくれた。
だから今度は、私が君の意味になりたい。
中学の頃の私みたいに、
これからの私が、君の走る意味になりたい。
君に私の、最高の走りを届けたい。
もう私のことは嫌いになっちゃったかもしれないけど、よければこれからの私を見ててください。
興野風結より』