包み愛~あなたの胸で眠らせて~
高橋さんは先に行って、席を取っていてくれた。


「350円でこれだけ食べれるのはすごいですね」

「うん、うちの会社自慢の食堂だからね。あ、池永くん。ここ空いてるよ、良かったらどうぞ」

「あ……すみません。中田さんと食べるので」

「ううん、いいのよ。気にしないでね」


いつの間にか私の後ろを池永さんが通っていて、高橋さんに呼ばれて彼は立ち止まった。

頭上から聞こえてくる彼の声になぜか緊張してしまい、私は箸を持ったままで動きを止めていた。

もしや一緒に食べることになるのかと一瞬動揺したが、別のテーブルに行ったので、ホッと胸を撫で下ろす。

彼が広海くんなのかどうか知りたいと思っていたけど、いざ本人が近くに来たら焦るなんて……なんだか情けない。

自分の不甲斐なさを心の中で苦笑してから、食べ始める。

高橋さんは黙々と食べる私に気遣ってくれて、この会社のことをいろいろと話してくれた。


「片瀬さんはうちの商品で好きなものある?」

「そうですね。去年くらいに発売されたお菓子のメーカーとコラボしたボールペンがかわいくて気に入っています」

「ああ、あのカスタマイズできるやつね」
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