包み愛~あなたの胸で眠らせて~
だって、私はずっと広海くんに会いたいと願っていたから。

広海くんは小学三年の夏休み前、私の前から姿を消した。何も言わずに、別れの言葉ひとつも言わずに、彼は引っ越してしまった。

広海くんの家は私の実家の隣の隣だった。だから、よく遊んでいたし、一緒に学校にも行った。だけど、突然休むようになって、私は学校からのお便りを届けていた。

彼は何度か受取りに玄関まで来たけど、病気には見えなかった。ただ表情が暗かった。突然引っ越したのは大人の事情で、そのときは詳しく教えてもらえなかった。

少し大きくなってから広海くんの両親が離婚して、広海くんは父親に、お兄さんの直海(なおみ)くんはお母さんに引き取られたことを知った。

どこに住んでいるかは分からなかったけど、いつか会えるなら会いたいと願っていて、ふとした時に彼を思い出していた。

あの人が広海くんなら伝えたいことがある。


空になった食器を片付けようと立ち上がると、ちょうど池永さんが高橋さんの後ろを通っていった。

あ、ほくろ……。

そうだ、ほくろ。実家に広海くんと写った写真がある。それを確認すれば分かるかも。
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