包み愛~あなたの胸で眠らせて~
最寄り駅前にあるベンチに女性がひとり座っていた。横には木があり、そこは陰になっているから暑さをしのげる感じだ。

その女性はなぜか広海くんを凝視していた。年齢は私の母と同じくらいの50代と思われる。

ベージュ色の花柄ワンピースに紫外線対策なのか黒色のカーディガンを羽織り、つばの広い麦わら帽子を被っていた。見たことあるような気がしたが、誰だったか思い出せない。

広海くんの知り合いだとしたら、仕事関係かな。前を見ていた広海くんの腕を軽く引いて、そっと顔を寄せて囁く。


「あの人、知り合いかな? 広海くんを見ているみたいだけど」

「えっ、どの人?」


広海くんは立ち止まり、私が話した方向を見る。その女性はまだ広海くんを見ていた。

女性は立ち上がって、こちらに向かってくる。

「広海?」

広海くんを名前で呼ぶほど親しい人?

あ、もしかして……。

「おかあ……さん」

「やっぱり、広海。本当お父さんそっくりになったわね」

彼を見ていたのは、広海くんのお母さんだった。
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