包み愛~あなたの胸で眠らせて~
翌朝。

「湊人ー、私出るからね」

「待って、待って。俺も出る!」

バッグを持って、リビングから湊人に声を掛けると洗面所から慌てる足音が聞こえた。数分待つと、湊人が布のトートバッグを片手に出てくる。

「この時間から行くなんて、珍しいね」

「うん、今日は1限からだし、その前に教授のとこに行く用事もあってね」

「ふうん。あ、おはようございます」

エレベーターが来るのを待っていると、池永さんが来た。彼はいつも私より先に会社に着いているから、朝ここで会うのは初めてだ。

「おはようございます」と返した池永さんの息は、少し乱れていた。

寝坊でもしたのかな。急いで出てきた様子。

降りてきたエレベーターには、二人ほど先客がいた。湊人は私に身を寄せて耳元で「広海くん?」と訊く。私はチラッと反対側に立つ池永さんを見て、頷いた。

外に出て、池永さんを追うように私と湊人は並んで歩く。

「今夜、歓迎会だっけ?」

「うん、湊人はバイトだよね?」

「おう。飲みすぎないでよ」

「うん、気をつける」

駅までは五分の距離。湊人の乗る路線は違うので、改札を通ってから別れることになる。
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