包み愛~あなたの胸で眠らせて~
さすがに住んでいるマンションが同じとは言えなかった。内緒にしておいたほうがいいのかは分からないけど、余計なことは出来るだけ言わないのがいいはず。

足元がふらつく池永さんを支えながら、タクシーに乗る。

「辛かったら寝ていていいですよ。着いたら起こしますから」

「うん……ありがとう。紗世……」

「えっ? 今、何て呼びました?」

思いがけず、呼ばれた名前に目を丸くさせた。

聞き間違いでなければ『紗世』と呼ばれたと思う。彼は辛そうに息を吐いてから、私を見る。

「紗世だろ? 覚えていない?」

「う、ううん! 覚えているよ。広海くんこそ、私のことなんて覚えていないのかと思った」

「懐かしい呼び方……。覚えているに決まってる」

「そ、そうだよね。だって、よく遊んだものね!」

突然変わった反応に戸惑い、上擦ってつい大きな声をだしてしまった。

私の声がうるさくて頭に響いたのか、広海くんは顔をしかめてからまた息を吐いて、目を閉じた。

話をするのが辛そうだ。今は、静かにしていよう。
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