包み愛~あなたの胸で眠らせて~
街の灯りが流れていくのを窓から見ていると、肩に何かが触れた。気分が悪くなって呼ばれたのかと思ったが、それは広海くんの頭だった。

首を彼の方に向けたら、髪と髪が触れ合う。くすぐったいその感触に懐かしさを覚えた。少し苦しそうな寝息がすぐ近くで聞こえてきて、私は広海くんの肩をそっと抱く。

彼と再会してから、『池永さん』と『広海くん』がなかなか同一人物にと結び付かなく、別の人間として見ていた。

だけど、今は違う。

彼から久しぶりに呼ばれた名前は昔の彼の声とは違うけど、懐かしくて嬉しくなった。

それで、間違いなく広海くんだと確信出来た。

広海くんは我が家によく遊びに来ていて、二人でソファに座ってテレビを見た。幼い頃の広海くんは弟体質のせいか同い年の私に甘えることが度々あった。

かたや弟がいる私は姉体質なんだと思う。頼りない感じだった広海くんの面倒をなにかと見ていた。広海くんはテレビを見ながら寝てしまうこともあった。

今と同じように私の肩にもたれて。

そんな広海くんも今では立派な大人だ。仕事はてきぱきとこなしていて、上司からも同僚からも信頼されている。
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