包み愛~あなたの胸で眠らせて~
本人も自信を持って、取り組んでいるのがこの二週間で見てとれた。そして、多分かなり頑張っている。

「広海くん、足元気を付けてね」

「ん……」

私よりも大きい体を支えるのは難しい。出来るだけ自分の力で歩いてもらえると、助かる。

タクシーから降りると「あれ?」と、少し離れたところから声が聞こえた。

「あ、湊人」

「紗世ちゃんも今、帰り? なんでわざわざタクシー?」

湊人が不思議そうな顔をしながら、近くまで来た。まだ電車が動いている時間だ。だから、タクシーで帰ってきたのをおかしいと思ったようだ。

「うん、具合が悪くなって」

「えっ、大丈夫? って、紗世ちゃんじゃないのか」

「うん、広海くん。熱があるのよ」

「熱? 俺も手伝うよ。大丈夫ですか?」

湊人は私と反対のほうから広海くんを支えた。一人では支えきれるか心配だったから偶然とはいえ、湊人がいて助かった。

まだ話すのが辛い様子の広海くんは、首を縦に振ることしかできない。熱が上がっているのかもしれない。

広海くんから鍵を借りて、ドアを開錠して玄関に入る。角部屋だからかうちと間取りが違っていた。
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