包み愛～あなたの胸で眠らせて～

2LDKのこの家に住んでいるのは私と明日から大学四年の弟。ここは母の妹夫婦、つまり私の叔母夫婦の家だ。

叔母夫婦は叔父の転勤で一年前から福岡に住んでいる。最低でも五年になるというので、私たちがその留守の間借りしている。

実家からでも会社にも大学にも通える距離ではあるが、ここからの方が便利なので移ってきた。明日から勤務する会社も今日まで勤めた会社の隣駅近くにあるから通勤しやすい。

部屋に入り、明日着るスーツを確認する。スーツ勤務という決まりはないけれど、初日はスーツがいいと派遣会社から言われている。

先月挨拶に行ったが、応接室で部長と課長に会っただけだから、他にどんな人がいるか知らなくて不安はある。

大人しくして、指示された業務だけを的確に行う。派遣社員としての心得はこの三年間でしっかりと身に付いた。

バッグの中も整理して明日に備える。失敗しないようにと胸に手を当てて、数回深呼吸。何でも始まりは緊張する。

そういうところは大人になっても変わらないなと玄関に行き、明日履く黒のパンプスを出した。


翌朝。

まだ寝ている弟の部屋を開けて、声を掛ける。