包み愛~あなたの胸で眠らせて~
「動くのしんどいよね? 私、持ってくるよ」

「いい……紗世、もういいから。ありがと……」

「でも」

「帰って」


辛そうにしている彼を置いてはいけない。

父親に引き取られたはずだけど、おじさんは留守なのかな。これから帰ってくるのだろうか。

このリビングからは、一人暮らしなのか二人暮らしなのか判断出来ない。

おじさんが帰ってくるなら任せれば安心できるけれど、いつ帰ってくるのだろうか?


「広海くん、おじさんは……」

「紗世ちゃん、持ってきたよ」

おじさんの所在を確認しようとしたとき、湊人が戻ってた。途切れた私の言葉は、広海くんの耳に届かなかった。

湊人の声が届いたらしく……「持ってきた? 何を?」と広海くんは訊く。


「あ、薬とか持ってきてもらったの。広海くんちにもあるかもしれないけど、なかったら使って。使わなかったら、あとで返してくれればいいから」


広海くんは何かを考えるように黙り込んだ。

湊人が冷却シートを一枚取り出した。


「とりあえず、えっと、これ貼っとく?」

「うん。広海くん、手をどかしてね」


湊人から冷却シートを受け取って、広海くんの額に貼った。熱い額に与えられた冷たさに、彼は「うっ」と唸るような声を出した。
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