包み愛~あなたの胸で眠らせて~
「着替えさせた方がいいんじゃない?」

「うん、そう思って聞いたんだけど、自分でやるからいいと言われてしまって困ってるんだよね」

「そうか。でも、動けるの?」

「そうなのよね。どうしようかな」

「帰って」と言われたから、いつまでもここにいるのは迷惑になるのかもしれない。でも、いまだにぐったりしている人を放置していくのは心配だ。

どうしたらいいのだろう。

「紗世ちゃんがやるより俺がやった方がいいよね? 着替えを取ってくるよ」

「あ、でも、勝手には……」

「いいから、帰って」

別の部屋に動こうとする湊人を制止していると、ソファに身を預けていた広海くんが体を起こして、拒む声を出した。私と湊人を交互に見つめる。

熱があるからまだ瞳は潤んではいるけど、意識はしっかりしているようだ。

「本当に助かりました。ありがとうございます。あとは自分でやるから大丈夫です」

私と湊人は顔を見合わせた。


「本人が大丈夫と言うなら、俺たちは帰ろうか?」

「うん、そうだね。……広海くん、おやすみなさい」


話し方が他人行儀に戻ったことに寂しさを感じたけど、いつまでもここにいては体を休めることができないだろう。まだ心配ではあるが、このあとは大人しく寝ると信じよう。
< 42 / 211 >

この作品をシェア

pagetop