包み愛~あなたの胸で眠らせて~
「湊人(みなと)、私出るからね。ご飯作ってあるから、ちゃんと食べてよ」

「ふぁーい」

気の抜けた返事をする湊人は布団から手を振るが、目は開いていない。

春休み中の学生はのんびりでいいな。私はのんびりしていられない。身を引き締めて、家を出た。

目の前にそびえ立つビルを見て、小さく数回深呼吸した。

バッグを持つ手に力を入れ、文房具メーカー『コロアール株式会社』に足を踏み入れる。細かいストライプ柄ではあるが、一見リクルートスーツにも見える落ち着いた紺色のスーツを着用してきた。

『事業部海外事業課』のドアをおそるおそる開けて挨拶する。

「おはようございます……」

「あー、片瀬さん、おはようございます。こちらにどうぞ」

先月顔合わせした長谷川課長が私に気付いて、ミーティングテーブルへと促してくれた。まだ始業時間30分前ということもあり、このフロアにいる社員はそれほど多くはなかった。

「今日からよろしくお願いいたします」

「こちらこそよろしくお願いします。どうぞ、座ってください」
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