包み愛~あなたの胸で眠らせて~
邪気の全く感じられない微笑みを受けて、さっき渋い顔をした人は別人かと思うくらいだった。とりあえず、快く受け取ってもらえたのはありがたい。


「ありがとうございます。夕方、私の方でこちらに取りに伺います」

「えっ、ああ、いいのよ。私が直接池永くんに渡すから。彼は夕方いるかしら?」

「はい。今日は外出予定が何もなかったので在社予定です」

「そう、良かった。じゃあ、あとで持っていきますね」


直接渡したいと言われたら、これ以上断るわけにはいかない。私は再度お礼を言って、総務課をあとにした。

なんとなくだが、あの女性が広海くんに好意を抱いていると感じた。

彼女が一方的に想いを寄せているだけならいいけど、二人が仲良いのは嫌だな。

……って、私が嫌だと思うのはお門違いもいいところか。

小さくため息をついて、自動販売機の前を通りすぎようとしたら、そこに広海くんがいたので足を止める。

もう打ち合わせは終わったのだろうか。

他に誰の姿もないのを確認して、小銭を投入している彼に歩み寄った。
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