包み愛~あなたの胸で眠らせて~
「広海くん、珍しく遅いね」

「実は寝坊しちゃって、慌てて出てきたんだ。なんとか間に合いそうで良かったよ」

「そうなんだね。そういえば、あの部屋には1人で住んでいるの?」

「うん、そうだよ」


前はこちらが質問してもそんなことを聞くなみたいな返事をされて、突っ込んで聞くことは出来なかった。

だけど、今日の広海くんは違う。頑なに閉ざしていた心を開いてくれているように思う。

今なら何を聞いても答えてくれるかも。聞きたいことは山ほどある。

電車の中で疑問だったことを口にしようとしたが、混雑している場でする話ではないと思い直した。周りに誰もいない場で話すのが理想的。

二人だけで話せる場所……ご飯に誘ったら応じてくれるだろうか。

勇気を出して誘ってみようかとチラチラと何度も広海くんを見たが、あと1歩が踏み出せない。

広海くんは私の視線に具合が悪いと思ったのか心配そうな顔をした。


「大丈夫? 苦しくない?」

「うん、大丈夫。もうすぐだね」
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