包み愛~あなたの胸で眠らせて~
乗車したときは混雑はしたが、今は押されるほどではなかった。だけど、その後降りる人よりも乗る人が増えてきていた。

私の隣に立つ広海くんとは、肩が触れあっている。広海くんは、息がかかりそうな距離から小声で話した。私の心臓の動きは速くなっていく。

澄んだ瞳で見られると困ってしまう。

動揺を悟られないよう、正面を向いたままで答えたのだった。

人と人との間から流れていく景色を見ていたが、カーブで体が傾く。足を踏ん張るけれど、他の乗客の流れに逆らうことが困難だった。重心が広海くんの方へといった。


「ご、ごめんね」

「いや。あとひと駅だね」


広海くんの肩に頭を乗せてしまったことを謝ったが、平然と返される。意識して焦っているのは私だけか……熱を帯びてしまった頬を見られないよう俯いて、小さく深呼吸して気持ちを落ち着かせた。

降りる駅に到着し、私たちは、さまざまな人の流れの中でなんとかホームに足をおろした。

ホッとしたのは一瞬で、足早に階段を下りていく。のんびりとホームでとどまってはいられない。
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