包み愛~あなたの胸で眠らせて~
「紗世、髪が乱れている」

「えっ、ほんと?……どう? 大丈夫かな?」


手で髪を撫でて整えたが、歩きながらでは鏡を出して確認出来ないので、広海くんに聞く。


「そっち側の毛先がまだ跳ねている」

「朝直したんだけど、戻っちゃったのかな。この辺かな?」

「そこじゃなくて、ここの……あ、ごめん」

「ううん、教えてくれてありがとう」


広海くんがここだと手を伸ばした時、私もそこの部分に手を移動させていて、彼の指先が私の手の甲に触れた。

わずかに触れただけなのに、広海くんは不自然なくらい慌てて、先に歩いていく。置いていかれないよう急いで隣に並ぶが「ごめん」とまた謝られた。

痛くもなかったから、そんなに何度も謝らなくてもいいのに。

まだ動揺している様子の広海くんは「あ」と急に動きを止める。


「ごめん、急用を思い出したから先に行く」

「えっ、あ……まっ……」


待ってと言いたかった。

でも、先に行く理由を言った彼を呼び止められない。小走りで進んて行ってしまった

呼び止めようと伸ばしかけた手が虚しく、空を切った。
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