コーヒーの薫りで
妊婦夫 、安部 辰夫
コーヒーショップで、デカフェのカフェモカとホットコーヒーを買う。
病室に戻ると、はるかが娘 すずなのおむつを変えていた。
「はるか、買ってきたよ。」
「ありがとう。」
彼女が嬉しそうに笑う。
2ヶ月ほど前は、この笑顔が見れないかと思った………
あの日。
仕事中にはるかから電話がかかってきた。
「仕事中に、ごめん。切迫早産って。」
震える声で伝えてくる。
'切迫早産'がなにかわからないが、よくないことなのはわかる。
その日は最低限の仕事だけして家へ急いだ。
次の日から、はるかは仕事を休み、家で過ごした。
家事はしようとしていたが、俺がするからと言い張りさせなかった。
家事よりなにより、お腹の子が大事だ。
その甲斐あって、早産にはならずにすんだ。
38週4日。
陣痛が来てからわずか4時間のびっくりするほどの安産だった。
母子ともに健康で、明日、退院する。
「退院したら大変だろうな〜」
カフェモカを飲みながら、彼女が笑う。
「俺も頑張るよ。」
育児休業をとろうかとも考えたが、この年になると部下もいる。いろいろ考えた末、あきらめた。
はるかが切迫になり、『家事は自分がする』と言い張りしていたが。思っていた以上に大変だった。
はるかはいつも仕事をしながら、これをこなしていたのだと感謝の気持ちしか起きなかった。
これから、育児もプラスされる。
「パパ、期待してるよ。」
「あぁ。」
2人でこの小さな命を、かけがえのないこの子を育てていこう。