コーヒーの薫りで
俺の担当になったのは若い医者だった。
正直頼りなく思った。
でも、彼の目は真剣で、
病状、治療法、治療の副作用など、俺にわかりやすいようゆっくりしっかり話してくれた。
ところどころ、わからなくて繰り返し質問したにも関わらず、嫌な顔ひとつしなかったのだ。
そして、言った。
『わからないと不安でしょう。』
『治療は患者さんと協力して行うものです。』
『不安があれば何度でも説明しますから。』
彼を信じてみようと思った。
手術もしたし、治療自体は思っていたよりしんどかった。
でも、後悔はしていない。
彼の説明で、自分で納得して治療を行うことができたから。
今日、俺は退院する。
あとは、外来で通える治療を続けていく予定だ。
帰りに、迎えに来た妻とコーヒーショップへ寄る。
2人でコーヒーを飲みながら妻に言われた。
「あなたが、あんなに先生を信頼するとは思わなかったわ。」
「そうだな。」
あぁ、そうさ。俺も思っていなかった。
彼が俺の心を動かしたんだ。