甘い約束
仕事最終日
他社との共同開発で、進めていた新商品のプロジェクト。

その仕事が、バレンタインの今日で終わってしまう。

そう。

今日で、他社に勤める篠原さんとは会えなくなってしまうんだ。

だからーーー。

「あの、篠原さん!」

会議室を出た篠原さんの後を、私は一人追いかける。

私がかけた大きな声に、篠原さんは驚いた様子で振り向いた。

「・・・っと、ああ、佐伯さん。お疲れ様でした。

・・・何か」

「あ、あの・・・これ」

私は、後ろ手に隠していたチョコレートの箱を差し出した。

すると、篠原さんはさらに驚いた顔をした。

「よかったら、受け取ってください・・・」

勇気を出した、私の手は震えてる。

篠原さんは、顎に手をやり考えこんだ顔をした。

「・・・これは、義理?」

「えっ」

「本命なら、受け取るけど」

「・・・えっ!」

今度は私が驚いた。

篠原さんはクスッと笑う。

「佐伯さん、彼氏いると思ったし。こんなおじさんに興味ないかと思ってたけど」


(まさか!)


「そんな、篠原さんがおじさんなんて」

「じゃあ、本命ってこと?」

「もちろん・・・」

頷くと、篠原さんは私の手からチョコレートを受け取った。

そして、スーツの胸元からペンと名刺を取り出すと、サラサラと指を動かして、メモ書きした名刺を私の手に握らせた。

「こっち、俺の携帯。お礼に今度ごちそうするから。連絡して」


(・・・!)


「は・・・はい!」

私の声に、篠原さんはまた笑う。

そして「いい返事」と、頭を撫でて誉めてくれた。
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