不器用な殉愛
プロローグ
 セヴラン軍の陣を訪れたディアヌは緊張していた。マントのフードで顔を隠したまま、室内に集まっている人達の顔を見ることもできず、伏し目がちに室内に足を踏み入れる。

 ディアヌが会いたかった人は、そこにいた。彼は、厳しい顔をしてこちらを見つめている。

 セヴラン国王、ルディガー。

 彼の周囲には、家臣らしき男が何人か控えている。

 ここに来るまでの間、案内の男に供をしてくれたジゼルの剣も渡してしまったから、彼らがディアヌに害を加えようとしたら、それを回避することはできない。

 回避するつもりもないけれど。

「——お人払いを」

 ルディガーの前に進み出て、頭を下げることだけはしたものの、フードを取ることはできなかった。

「人払いはしない。それに、人に話を聞いてもらおうというのに、フードをかぶったままというのはあんまりじゃないか」

 ルディガーの言葉に、ジゼルが一歩前に出る。ディアヌはジゼルを手で制した。

 できれば、人前で顔をさらしたくはなかったのだがしかたない。

「ええ、そうですね。私が間違っていました……できれば、あまり大人数の前には顔をさらしたくなかったのですが」

 言葉と共に頭にかぶっていたフードを背中に払い落とす。

 ルディガーの目が、フードから現れたプラチナブロンドに吸い寄せられた。

「……ディアヌ」

 彼は、呆然としたようにディアヌを見つめる。

 思えば、十年ぶりの再会だ。顔を見ただけで、気づいてもらえるとは思わなかった。
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