不器用な殉愛

「——ディアヌ姫を救出に行く」

 そう言うと、侯爵は驚いたような目をルディガーに向ける。

「ディアヌ様を?」

「何か不都合でもあるのか。お前の部下から詳しいことは聞け——城内の絵図をもたらしてくれたのは彼女だ」

 マクシムの目から見れば裏切り者であるヒューゲル侯爵は、平然とこの場に立ち尽くしていた。自分のことを、周囲がどう見ていようが気にしていない様子だ。

「そうですか。あの方が——ええ、どうぞ。連れて行ってください」

 そう言いながらも、侯爵は、あまり気乗りのしていない様子だった。だが、ルディガーを引きとめることなく、部下に案内するよう命じる。

 絵図があるとはいえ、城内の様子に詳しくないルディガーにとっては、案内人がいてくれた方がありがたかった。

 まだ、あちこちで続いている小競り合いを時には避け、時には正面から蹴散らし、かつてブランシュ王妃が暮らしていたという一角に進む。

「——中から、鍵が」

「破壊しろ!」

 その区画に入る扉には、内側から鍵がかけられていた。いや、この鍵がディアヌのかけていたものであるというならばそれでいいのだが——。

 扉など、あとからいくらでも修繕できる。ルディガーの命令により、あっという間に扉は破壊された。

 さらに、もう二つ、内側から施錠された扉を壊して先に進む。長い廊下の向こう側に、兵士達の一団が見えた。

 さらに、一人、ひときわ豪奢な衣装を身に着けた男も。
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