不器用な殉愛
「行ったら、危ないんでしょう?」

 たぶん、ルディガーはディアヌよりそんなに年上ではない。近隣の村の男の子達と顔を合わせる機会はあるけれど、彼らと比べるといくぶん線が細いみたいにも思えた。

「まあ——けど、戦には危険なんてつきものだろ」

 この少年をこのままいかせてはだめだ。

 頭のどこかから、そうささやきかける声が聞こえてきた。どうしてそう思ったのかなんて、ディアヌ本人のもわからない。

「あのね、ルディガー。この修道院には物置があるの。そこなら隠れていられると思う。ご飯は——パンしか持っていけないけど」

「お前、俺を匿うつもりか?」

「だって、ルディガー、怪我してるでしょ?」

 彼があちこち怪我をしているのは見ればすぐにわかるが、一番ひどいのは足のケガだ。修道院には治療院が付属していて、そこに来る近隣の村人たちを見ているから気が付いた。

「あとで、お薬も持って行ってあげる。だから、ここにいて?」

「——けど」

「お願い。ルディガーに、ここにいてほしいの」

 怪我をしている人を見捨てるわけにはいかない。だから、ルディガーを物置に匿うことに決めた。ディアヌが先を行き、その後をルディガーがこそこそとついてくる。

 ラマティーヌ修道院は、セヴラン王国とシュールリトン王国の国境付近にある。

近頃、シュールリトン王国がセヴラン王国に侵攻を開始したという話は、このあたり一面に広まっていた。

だが、まだ六歳のディアヌには、戦の状況なんてわからない。理解できたのは、目の前にいる少年が、このままでは死ぬであろうということだけだった。
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