不器用な殉愛
「あなたの厚意はわかっています。ただ、これ以上は余計な軋轢を生みたくないと私が思っているだけで」

 彼の顔を見る度に、ぐらりと心が揺れるのを自覚しないではいられない。

 もし、マクシムの娘でなかったら。

 もし、父があんな人でなかったら。

 平和のうちに両国の間に婚姻が成立していたなら、きっと生涯を共に歩めただろう。

 だが、そんなことはありえない。無意味な空想に浸りかけた自分を懸命に引き戻す。そんなこと、考えたって無意味だ。

 呪われた血は、どんなことをしたって消せるはずがない。自分の父が、彼の父を殺したということを考えあわせれば、とんでもない提案を受け入れてくれたことだけに感謝すべきだ。

「そうそう、お前に一つ頼みがあるんだ」

「……なんでしょう?」

 墓の前に花を供え、しばらく祈りを捧げてから立ち上がるのを待っていたかのように彼が口を開いた。
 
< 110 / 183 >

この作品をシェア

pagetop