不器用な殉愛
「頼みというのはなんでしょうか」

「この城に施療院を設ける。今回の戦で、怪我を負った者もいるし、病人も多い。ラマティーヌ修道院から、交代で修道女を派遣してもらうことになったから、彼女達と一緒に働いてくれないか」

「……でも」

 自分の素性を知ったなら、施療院に来た人達も嫌がらないだろうか。ただ、二年の間を無意味に暮らすよりはましだとは思うけれど、すぐには返答できなかった。

「ジゼルともども、施療院では見習い修道女としてふるまえばいい。そのように手配してあるから」

「そんなことまで、考えてくださったのですか。でも、見習い修道女のふりをするなんて……」

「二年たったら、修道院に戻るつもりでいるんだろう。俺は、そうさせるつもりはないが、その準備と思えばいいだろう」

 この人は、どうしてこんなにも的確にディアヌの欲しいものを見つけ出すことができるのだろう。

 この世に生を受けるべきではなかったのに、生まれてきてしまった。自分の血はここで終わらせる。後の時代に残すつもりはない。

 そのかわりに、できるだけ、誰かの役に立ちたかった。その想いが、家族をルディガーに売り渡すことであり、修道院に戻って周囲の人達のために身を粉にして働くと決めたことでもあった。

「……そうですね」

 漫然と、城の奥で暮らすより、その方がいいのかもしれない。少なくとも、誰かを生かす役に立てたら、家族を死に追いやった後ろめたさも少しは解消できるだろう。
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