不器用な殉愛
「『ディアヌ王妃は病気のために引きこもっている』ということになっているらしいですよ。その方が、安全なのかもしれませんね」
十四になるまで修道院で暮らしていたし、ここに戻ってきてからも、極力人前には出ないようにしていた。自分の姿を見ることで、父のことを思い出し、不愉快になる人が出たら申し訳ないと思っての行動だったのだが、ある意味いい方向に働いているのかもしれなかった。
「……その方が、いいわ。何もしないより——ずっといいもの」
またパンを砕いてスープに落とす。
「陛下には、かなわないわね。私が——少しでも楽に呼吸できるようにと考えてくれるのだから」
そのルディガーは、というと朝も早くから城内を駆け回っているようだ。まずは、戦で荒れた城内および城下町の体制を整える。
それと並行して、シュールリトン王国の家臣達と今後どうするのかを話し合う。やらねばならないことは山積みなのだろう。
城の奥に引っ込んだまま、忘れられた王妃でいいと思う。もともと、二年だけの約束だ。
——本当に?
心の奥から聞こえてきた声には、聞こえなかったふりをした。
本当に、二年でここを去ってもいいと思っているのか。それを問われれば気持ちが揺れる。
父の血を引く以上、日の当たる道を歩むことなんて許されないとわかっているはずなのに。
「食事を終えたら、このまま夕食の支度をして。施療院に入っている人達の食事は、ここで作ることになっているから」
「かしこまりました」