不器用な殉愛
食事を終えると、そのまま夕食の仕込みにかかる。修道女達がここに来る途中で買い集めてきた食材を洗い、皮をむき、刻む。
「包丁を扱うのには慣れていたはずなのに、手つきがぎこちなくなっている気がするわ」
芋の皮をむきながら、ジゼルが嘆いた。隣でにんじんを刻んでいたディアヌも苦笑いする。
「私もよ。もっと上手に包丁を扱うことができると思っていたのに」
城に戻って、たった二年だというのに——一度忘れた技術を取り戻すのには、まだ時間がかかりそうだ。
それからの生活は、毎日静かに過ぎていった。朝起きたら施療院に集まっている患者達の食事を用意。包帯を巻きなおしたり、薬を与えたり。敷布をかえてやり、掃除をする。
汚れた敷布はまとめて洗濯に回し、干し終えるころには昼食の準備だ。患者達に昼食を与えてからようやく少しだけ休憩することができる。
静かで、変わらない毎日であったけれど——一種の幸福でもあった。この城に戻ってきてから常にさらされていた『裏切り者の娘』という視線にさらされないですむ。
食事の世話をするだけで、「ありがとう」という声をかけてもらえるのだ。この城に戻ってきてから、感謝の言葉を与えられたことなんて、ほとんどなかった。
約束の日時が過ぎて、修道女達が入れ替わる日がやってきた。
「……あなた達は、ここで患者さん達のお世話に身を捧げなさい。それが院長のくだした修行です」
患者達の前で修道女の一人が告げる。それは、修道女達が入れ替わっても、二人は残るのを不思議に思われないための言葉だったのだろう。