不器用な殉愛
 あふれてしまいそうな気持ちに、懸命に蓋をする。

「……あなたは、いつも——私に、もう少しだけ、生きていてもいいのだと思わせてくれます」

 これ以上は、言えない。

「もう少しだけとか、そういう言い方はないだろう。生きていて悪い人間なんて、一人もいないはずだ」

 不意に背後から腕が回された。二歩、後退させられたかと思ったら、ルディガーの腕の中に抱え込まれている。後頭部が、よく鍛えられた胸板に激突する。

「私の父にも、同じことを……言えますか?」

「罪を犯す前ならな。お前の父親は、たくさんの罪を犯した。それは、償わなければならないだろう。だが、お前は違う」

「……あなたのお父様を殺したのは、私の父親です。それをお忘れになったわけではないでしょう」

「戦の中でのことだ。それに、お前自身は、あの戦で何かしたというわけでもない」

 彼の父が戦に敗れた時、まだ六歳であった——それは、事実であったけれど。

 けれど、父の罪を背負い、自分の罪も重ねてしまったのだから、これ以上は慎まなければ。

 誰かに見られたら——という恐れも、周囲をシーツに囲まれているから少しだけ薄れた。

 生まれてから、こんな風に抱きしめられたことが何度あったのだろう。

 彼の呼吸に合わせて、ゆるやかに胸が上下するのを後頭部で感じ取る。それと同時に、心臓が規則正しく動いているのも。

 もし、違う形で出会っていたならばと、幾度となく胸をかすめた想いがよみがえってきた。
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