不器用な殉愛
「……見習い修道女に、そんな真似をしてはいけません。陛下」
全力の意思の力でそっと彼の腕を解き、向きを変えて新たなシーツに手を伸ばす。夕食前に、このシーツを畳んで、所定の場所にしまっておかなければ。
まとめたそれを籠に放り込み、次のシーツに手を伸ばす。だが、そのシーツが手に取る前に縄から外され、ふわりと宙を舞った。
目をしばたたかせれば、ルディガーがにやりとして、手に取ったシーツを籠に放り込んだ。
「二人でやった方が早いだろう」
「——こ、国王のすることではありませんよ……!」
「いいだろう。国境の城で『傭兵』を名乗っていた頃は、なんでも自分でやったんだ」
少しでも、側にいられるのを嬉しいと思ってしまう。この気持ちは、危険だ。
——自分が幸せになることを許されると思っているの。
自分で自分にそう意地悪な問いを投げかけずにはいられなかった。
父の血を引いているというだけではない。それが正しいと判断しての行為だったとしても、父や異父兄達がどんな人間だったとしても。
彼らを死に追いやったいう事実までは消し去ることができない。城内には、自分に向ける厳しい目がいくつもあるのもわかっている。
なのに、心は弱くて。少しでもこの時間を長引かせようと、シーツを取り込む手も止まりがちになる。
「誰かが見たら、変に思いますよ」
「問題ない。通りすがりに『見習い修道女』の手伝いをしてやっているだけだ」
もう少しだけ、もう少しだけ——この時間を長引かせたい。そのあさましい気持ちは、あっという間に終了を迎えることになった。