不器用な殉愛
「……だって」
「だってじゃありません。さて、先に中に戻っていてもらえますか。私はハーブ園の方を回って戻るから」
「それなら、私も一緒に」
「シーツを先に畳んでおいてくださいな。そうじゃないと、夕食の支度に間に合いませんよ」
「それは大変!」
ばたばたと建物に駆け込んだディアヌは、自分が立ち去った後、かわされた会話の内容なんて知るはずもなかった。
◇ ◇ ◇
「——恩に着てくださいよね。こうやって、言い聞かせてるんですから」
「気づいてたのか」
ジゼルの声に、ルディガーは身を潜めていた場所から抜け出した。立ち去った後も、一人にしておくのが心配でこうして陰から見守っていたのである。
ディアヌ本人には気づかせないようにしていたけれど、城内では常に彼女を護衛している者達がいた。それは、ラマティーヌ修道院から呼び寄せた修道女達だったり、こうして目の前にいるジゼルだったり。ノエルをはじめとしたルディガー自身の部下達だったり。
父親と異父兄をルディガーに売り渡したことに対し、感謝している者も多い。それは、主にマクシムの下で虐げられてきた者達だった。その反面、憎悪の念を向けている者達もいる。
「当たり前でしょう。私を誰だと思ってるんです。クラーラの孫娘ですよ。ノエルがそこにいるのもわかっているから、先に一人で行かせたんです」
さすがクラーラの孫娘と言うべきか。
「やはりそうか。なるべく気づかせないようにはするつもりだ」
「ご自身でも、気づいている部分もあるとは思いますけどね」