不器用な殉愛

 シーツの籠を抱えあげ、ジゼルは深々とため息をついた。見習い修道女の服装ではあるが、おそらくスカートの下には武器を隠しているだろう。その許可は、ノエルを通じて出してあるし、剣も返してある。

「——見てて、痛々しいと思います。父親を選ぶことなんてできるはずがないのに。私達だけが家族だって。役目が終わったら、静かに暮らすって……姫様、は」

 うっかり、昔の呼び方に戻っているのにも彼女は気づいていないようだった。籠を握りしめる手に力がこもる。

「あなたのことを話す時だけは——少し、笑ってくださるから。だから、私はあなたを認めたの。約束の期限までになんとかして」

「なぜ、お前はそこまで忠誠を誓う? お前にだって、お前のやりたいことがあるだろうに」

 それは、以前からの疑問だった。あの修道院で暮らしている女性達は、皆、ディアヌに忠誠を誓っているように見える。

「ブランシュ王妃様が——母と私の命をすくってくださったんですよ。マクシムに殺されかけるところだったのを。これ以上城にいてはいけないと、祖母に命じて、ラマティーヌ修道院に送ってくれたんです。祖母をそこの院長にしたのも、ブランシュ王妃様でした」

 ふっと息をついてジゼルは続けた。

「王妃様の願いだから、私達はディアヌ様をお守りするんです。もちろん——ディアヌ様にも幸せになってほしい。だって、生まれてから、自分の楽しみというものをまったくもたないできた人だから」

 前夫との間に生まれた娘を亡くしたのち、ブランシュは娘を修道院に送ったという。それは、二度目の夫との間に生まれた娘だけ生き残ったのを見たくなかったからではないかと考えていたが、違う理由があるのだろうか。
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