不器用な殉愛
「——ま、いいんですけどね」
とてもではないが、いいとは思えない表情のままノエルは続けると、話題を変えた。
「ヒューゲル侯爵から報告がありました。ジュールは国境を越えたようです。どうします?」
「国境を越えたとなると、勝手に追うわけにもいかないな」
マクシムの死亡は、周辺の国にも伝わっている。この隙に、ルディガーの占拠した地を奪おうとする者もいるだろう。
「侯爵はなんと言ってきたのか」
「許可をいただければ、このまま追いたいと。先方と話をなさいますか」
「さて、どうするか——ヒューゲル侯爵をこのまま野放しにしておいて大丈夫だと思うか?」
「自分の身が危ういとなれば、またジュールに寝返るでしょう。あれはそういう男だと思います」
それは、ルディガーも懸念するところだった。国内ならばともかく、国を超えた侯爵を制御できるとは思えない。
「戻るように命じろ。ジュールの件は、そうだな——信頼のおける者に追跡調査を」
「かしこまりました」
それで、すべて片が付くと思っていたのだが——十日後、ルディガーのもとに、信じられない知らせがもたらされる。
それは、勝手に国境を越えてジュールを追ったヒューゲル侯爵が重傷を負ったというものだった。
勝手に国境を越えたとなれば、問題となる。
「まったく、やっかいなことをしてくれたものだ」
政務部屋として使っている小部屋で、ルディガーは頭を抱えた。先方は、侯爵を保護したとは言うが、謝罪を要求されるのはわかっている。謝罪ですめばよいば、何らかの形で勝手に国境を越えた賠償をするよう求められるだろう。