不器用な殉愛
「……意外ですね。こういう方向で、制御がきかなくなるとは思っていませんでしたよ」
ノエルの方も、今回の顛末には頭を抱えているようだ。どちらかと言えば、ジュールに寝返る方を恐れていたというのに。
「いや、ジュールに寝返ろうとして、処罰されたのかもしれないな。ジュールにとっては国を出る原因を作った一人ではあるわけだから」
ルディガーは考え込む。あとの原因は、ディアヌとそしてルディガー自身だ。
「しかたない。賠償というか、金銭面で保障になるか交渉を頼む。国境の土地がほしいというなら——渡してもいい。今は必要ない土地だ」
「かしこまりました。ある程度侯爵の傷が癒え次第、こちらに送り返すように手配しておきます」
ヒューゲル侯爵が逃げ込んだ国とは、金銭面での交渉ですんだ。土地を渡してもよかったのだが、先方としても、荒れた土地を受け取るという選択はなかったらしい。
「——侯爵が戻ってきたら、どうしますか」
ひと月の後、動けるようになった侯爵がこちらに戻ってくるという。ノエルに問われ、ルディガーは考え込む表情になった。
「当面は仕事を与えるわけにもいかないだろうな。城内で養生させておくことにしよう」
「養生、ですか」
「俺の目の届くところに置いておきたい。どうも、今回の侯爵の行動にはひっかかるものがあるんだ」
「ひっかかりますか」