不器用な殉愛
「そういうことを言うものではない。俺は、お前を修道院に戻すつもりはないといつも言っているだろう」
「父や異父兄のことを、皆覚えているのですから——難しいでしょう、それは」
「二年たつ前に、国内が安定するかもな。そうすれば、誰にも文句は言わせない」
ルディガーの言いたいこともわかる。彼は、国内を着々と平定していた。解放され、喜んだ旧セヴラン王国だけではなく、旧トレドリオ王家の家臣達も、ルディガーに忠誠を誓っている。
復興を果たした現トレドリオ王がやってきて、ルディガーの前で頭を垂れた。彼は、ディアヌの方に鋭いまなざしを向ける。
「——この方が」
「そうだ。ブランシュ王妃の娘だ。そして、今は俺の妻である」
「よく、似ておいでだ。その髪の色も、瞳の色も——面差しも、ブランシュ様のお若い頃のようで」
「本当に? 私は——似ていますか?」
あまり口を開いてもいけないだろうと、じっと座っていたのについ大きな声が出た。ディアヌが大声を出すと思っていなかったのだろう。トレドリオ王も、急に変わった態度に驚いたみたいだった。
「とても……よく似ていますとも」
「そう……そうなの。よかった……」
祈るみたいに、胸の前で両手を組み合わせる。それから、自分がぶしつけなことをしたのに気づいて、ぱっと頬に血が上った。
「いえ、私ったら失礼なことを……ただ、母の姿を知らなかったので。幼い頃に別れたので、どんな顔をしていたのか、声をしていたのか——何一つ覚えていないんです」