不器用な殉愛

「あと、三つ数える間に出てきなさい。さもないと」

「……どうし、よう……」

 ルディガーの袖をぎゅっと掴む。

 ルディガーは、とてもやさしい目になって、ディアヌの頭を撫でてくれた。そんな顔、今まで見たことなかった。

 自分でも訳がわからないくらいに胸が締め付けられて、ディアヌはますます強く彼の服を掴む。

 ディアヌを抱き上げると、ルディガーは傷ついた足を引きずるようにして院長の前に出て行った。

「あら、思っていたより若かったこと」

 ディアヌを地面に下ろしたルディガーに向かい、院長は微笑みかける。

「——俺、出ていくよ。それでいいだろ? 逃げ込んだのが女子修道院だったのは、悪かったと思ってる」

「やだ、ルディガー……行っちゃだめ」

 ルディガーにいってほしくなくて、ディアヌは彼の腰にしがみついた。

「おだまりなさい」

 ぴしゃりとクラーラ院長は言い放った。その声音の鋭さに、また二人そろって飛び上がる。

「——まったく。姫様がこそこそしてるからおかしいとは思ってたのよ。まさか、男を匿ってるとはね。ルディガーとやら、お前が使ったその薬、ただではないのですよ?」

「そ、それは」

 ラマティーヌ修道院の修道女達が作った薬は、たいそうよく効くと言われている。戦争に赴く前の騎士や兵士達がこぞって求めに来るのだ。

 できる限り安価で提供するようにはしているけれど、彼らが代金の他にもたらす寄付金は、この修道院にとっては大切な収入源だった。

「それに、パンもただではありません」

「でも、それは私の分だから」

「姫様、姫様もおだまりなさい。厨房から残り物を持ち出していたでしょう」

 こっそり厨房のものを持ち出していたのは事実だったから、ディアヌは黙り込むしかなかった。
< 14 / 183 >

この作品をシェア

pagetop