不器用な殉愛
「あと、三つ数える間に出てきなさい。さもないと」
「……どうし、よう……」
ルディガーの袖をぎゅっと掴む。
ルディガーは、とてもやさしい目になって、ディアヌの頭を撫でてくれた。そんな顔、今まで見たことなかった。
自分でも訳がわからないくらいに胸が締め付けられて、ディアヌはますます強く彼の服を掴む。
ディアヌを抱き上げると、ルディガーは傷ついた足を引きずるようにして院長の前に出て行った。
「あら、思っていたより若かったこと」
ディアヌを地面に下ろしたルディガーに向かい、院長は微笑みかける。
「——俺、出ていくよ。それでいいだろ? 逃げ込んだのが女子修道院だったのは、悪かったと思ってる」
「やだ、ルディガー……行っちゃだめ」
ルディガーにいってほしくなくて、ディアヌは彼の腰にしがみついた。
「おだまりなさい」
ぴしゃりとクラーラ院長は言い放った。その声音の鋭さに、また二人そろって飛び上がる。
「——まったく。姫様がこそこそしてるからおかしいとは思ってたのよ。まさか、男を匿ってるとはね。ルディガーとやら、お前が使ったその薬、ただではないのですよ?」
「そ、それは」
ラマティーヌ修道院の修道女達が作った薬は、たいそうよく効くと言われている。戦争に赴く前の騎士や兵士達がこぞって求めに来るのだ。
できる限り安価で提供するようにはしているけれど、彼らが代金の他にもたらす寄付金は、この修道院にとっては大切な収入源だった。
「それに、パンもただではありません」
「でも、それは私の分だから」
「姫様、姫様もおだまりなさい。厨房から残り物を持ち出していたでしょう」
こっそり厨房のものを持ち出していたのは事実だったから、ディアヌは黙り込むしかなかった。