不器用な殉愛
「本当に、見ていていらいらしますね」
ジゼルが部屋を出ていくのを待ち、ルディガーに向かって、ノエルは嘆息した。ディアヌに、彼がどんな感情を向けているのか、ノエルはよく知っている。
「あなたは、あの方と離れるべきなのに。マクシムの血筋というのは、どこまでもついてくるんですよ」
「それを言うなら、マクシムは俺の父の仇だぞ。まさか、忘れたわけじゃないだろうな。親の罪を娘にまで背負わせるなんて馬鹿のすることだ」
ディアヌも、ジゼルも。同じ年頃の娘なら、普通に楽しむであろうことは何一つ知らない。美しく身を飾ることでさえも、彼女にとっては罪滅ぼしでしかない——人前に出て、ルディガーに従っていると見せるために、『王妃』として装う時だけ。
「あなたには、もっとふさわしい女性がいるでしょうに」
「くどいぞノエル。俺には、ディアヌが必要だ」
あの時、立ち上がる力をくれたのはディアヌだ。彼女の与えてくれたパン一切れ。ラマティーヌ修道院で暮らした短い日々がなければ、もう一度立ち上がる気になれたかどうか。
「……それは、わかっているのですけれどね。あなたにはもっと——」
「いくらお前でも、それ以上は許さないぞ」
ぴしゃりとノエルの言葉を遮る。まだ、だ——まだ、その時ではない。
幾度、同じ言葉を繰り返したのだろう。それは、ルディガー自身もよくわかっている。
ひょっとすると、彼女の望むようにしてやるのが一番いいことなのかもしれないという迷いがないとは言わない。
——だが、手放せないのだ。どうしようもなく。
「五日後には出る。準備を進めろ——お前は、ここに残ってくれ。ヒューゲル侯爵が気になる」