不器用な殉愛

「何かありましたか」

「いや。トレドリオ王家にかかわる者がいるだろう——トレドリオ王家がこの国を治めていた頃、ヒューゲル侯爵はどのような人物だったのか、調べてくれ。それに、俺がいなくなれば、彼が妙な動きをするかもしれないだろう。その様子を確認するのはお前に任せる」

 ノエルがうなずく。

 ヒューゲル侯爵の動きには、不可解なところが多い。

 トレドリオ王家が滅びそうになった時には、すぐにマクシムに寝返った。そして、シュールリトン王家が滅びそうになった時には、すぐにルディガーに寝返った。

 だが、それだけなのだ。必要以上の報酬は求めない。もっと、自分を引き立てるように動いてもいいはずなのに。

「ルディガー様がいなくなったら、尻尾を出すかもしれませんね」

「ひと月後には戻る——それまでに妙な動きを見せるようであれば、後のことはお前に任せる」

「かしこまりました」

 あとのことはノエルに任せ、まずは目の前の雑事から片付ける。二年以内になんとかすると約束したのだから。

 明日には出立するという日になって、ディアヌのもとを訪れる。今日も彼女は、見習い修道女の衣服に身を包み、くるくると動き回っていた。

 遠くから、目を細めてその様子を眺める。彼女は、めったに表情を変えない。

 時折、薄く笑みを浮かべることはある。申し訳なさそうに、視線を落とすこともある。

 耳まで赤く染めることもあるが——それは、動揺している時だけだ。

 今だって、唇をきゅっと引き結んだまま、患者の洗濯物を干しているところだった。施療院では、そろいの寝巻を支給している。
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