不器用な殉愛
 ◇ ◇ ◇

 

 ルディガーが出かけて行って十日ほどが過ぎた。城に在留していた兵士も一部いなくなっているから、どこか静かになったように思える。

 正体を知られたくなければと脅しをかけてきた男は、気が付いたら姿を消していた。

「どちらが、本当のあなたなのでしょうね」

「こんなところに、侯爵がいらしていいのですか」

「あなたも、こうして、患者の世話に明け暮れている」

 声に振り向いてみたら、そこに立っていたのはヒューゲル侯爵だった。見習い修道女として、ここにいるディアヌは首を横に振る。

「このくらいしか、できることはありませんもの。城の采配を振るう立場にあるわけでもないですし」

「王妃なのに?」

 ジュールと戦いになり、傷を負って戻ってきたという侯爵は、それ以来ルディガーの元で働いている。兵士達の鍛錬を監督し、有事にはこの城の守りの一部を任されるそうだ。

 そんな話もルディガーからは聞いていたけれど、それに対して何か言える立場でもなかった。

「私を、王妃として認めている人が何人います? 陛下を——新しい王として認める気持ちが強ければ強いほど、私の存在を疎ましく思う人も多いでしょう。ヒューゲル侯爵、あなたもそうなのではないですか」

 敷布に寝間着に下着。洗濯物はいつも山積みだ。他の人間と顔を合わせることも少ないから、たいていディアヌは洗濯場にいる。

 少し離れたところでは、ジゼルが洗濯物についたしつこい汚れを落としていた。こうして、少し離れたところから警戒してくれているというわけだ。
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