不器用な殉愛
彼女はちらりとこちらを見て、話しかけてきたのがヒューゲル侯爵であるのに気づくと眉間に皺を寄せた。だが、何も言わず、洗濯に戻る。ちらちらとこちらに対する警戒は怠らないまま。
「あなたも、おつらい立場でしょう。母は、あなたに何か言いましたか?」
侯爵は、母がトレドリオ王妃だった頃、トレドリオ王家に仕えていた。ディアヌの父であるマクシムがトレドリオ王家を滅ぼし、シュールリトン王家がたった時、真っ先に裏切った一人だったと聞いている。
そして、父が力を失った時には、真っ先にルディガーについた。彼に対する目立って、ディアヌに対するものと同じくらい辛辣であるはずだ。
「……いえ、特には」
「そうですか。あなたの、目的は何なのですか?」
その問いかけに、ヒューゲル侯爵は二度、瞬きをした。ディアヌのその問いは予想していなかったとでもいうように。
ジゼルの方へディアヌは視線を向ける。ジゼルは、しつこい汚れを落とした洗濯物を籠に入れたところだった。
「目的、ですか」
「ええ。私の目には、あなたが、何も考えず寝返るような人には見えないのです。父に寝返った時も——今の陛下に協力した時にも」
これが父のような人間であれば、まだわかるのだ。だが、ヒューゲル侯爵は、そんな人間には思えなかった。
もちろん、恐怖にかられ、目の前の戦から逃げ出すなんてありえないというわけではない。だが、ヒューゲル侯爵は逃げ出したわけではなかった。
二度、裏切ったのだ。自分が、どんな立場に置かれるのかも承知したうえで。