不器用な殉愛
「……だが、私は力不足だった。陛下をお守りすることもかまわず。ブランシュ様をお守りすることもできず——連れて逃げようとしたのですよ、あの方を」
「そう、だったのですか」
「だが、あの方は反対なさった。そんなことをすれば、身重の自分は足手まといになる。そして、もしとらえられたら——私も殺される、と。それよりは、側にいて自分を助けてほしいと頼まれたのですよ」
だから、ヒューゲル侯爵は父の下についた。自分の側で守ってほしいと母に頼まれて。
この人は……この人なりの考え方で、母を、異父姉を守ろうとしていたのだ。
だが、母の願いはかなわなかった。ヒューゲル侯爵は、父によって国境の警備に追いやられてしまったから。
「数年で戻してくれるという話だったのですがね——それは、かなわなかった。私が国境で警備についている間に、あの方は亡くなった」
それより前に、母は愛した前夫との間に生まれた娘を失っている。頼りにした侯爵を失い、娘を失い、母は——どんな思いで残る日々を過ごしたのだろう。
「……あなたがいてくださって、母も心強かったでしょう……きっと」
母の顔すら覚えていないけれど、きっとそうだろうと思った。
「ようやく、この城に戻ってきたと思ったら、今度はあなたがシュールリトン王家を滅ぼそうとしていた。やられたと思いましたよ」
「私なんて、何もしてないです。ただ、ルディガー、いえ……陛下に絵図を渡しただけで。あなたの協力があってこそのことでした」