不器用な殉愛
「その服は、セヴラン国のものでしょう——それなら、今出ていったら間違いなく殺されるのだから、しばらくここにいなさい」

 クラーラ院長は、昔から修道院にいたわけではないのだそうだ。娘、つまりジゼルの母にあたる女性がいたということは、一度は結婚していたというわけだ。

 その分、信仰の世界しか知らない他の修道女達とは少し違うのだと、ジゼルが説明してくれたのを覚えている。

 ディアヌには、とても難しい話で、半分も理解できてはいないけれど。

「傷が治るまでの間は、ここにとどまっていいわ。ちょうど、男手が必要だし。自分が使った薬の分と、食べてしまったパンの分は労働で返しなさい。それから、今後治療に使う薬の代金もね」

「院長! 大好き!」

 ディアヌは思わず院長に飛びついた。

「姫様、そう飛びついてはいけません。いいわね、ルディガー。ただ、この建物の中に寝泊まりするのは許しません。ここは女子修道院ですからね。庭に、旅人を宿泊させるための小屋があります。お前はそこを使いなさい」

 ルディガーが、ちらりと院長を見るのをディアヌは視界の隅で確認した。彼が、この提案を受け入れてくれればいい。

 もし、彼がここを出て行ったあと、殺されるようなことになってしまったらきっと後悔する。

 もちろん、セヴラン国の人間が敵であるとうことはわかっていたけれど、ここは修道院だし、関係ない。
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