不器用な殉愛
 ◇ ◇ ◇

 

 ルディガーが戻ってくる。そう報告を受けた日は、朝からそわそわせずにはいられなかった。

 無事に戻ってきてくれた。それだけで十分だ。

 ——彼の側にいることを許されるのは、もうしばらくの間だけだから。

 今日もまた、『アメリア』は戻ってきたルディガーを歓迎する宴の手伝いに回っているという触れ込みで、施療院の方には早朝少し顔を出しただけだ。

 今日は、シーツの洗濯も寝間着の洗濯も必要ない。今日一日は、修道女達だけで間に合うだろう。

「私、大丈夫よね。みっともなくないわよね」

 鏡の中を見つめてそわそわしている自分をあさましいと嘲笑いたくなるのも嘘ではない。だが、自分には許されないとわかっていても、彼の前に立つならば少しでも美しく見せたかった。

「ディアヌ様がみっともないなんて——そんなことあるはずないでしょう」

 ジゼルの方も、今日は施療院に赴く時の簡素な衣服ではなく、華やかな飾りはついていないものの、それなりに上質のものに身なりを改めていた。

 侍女として、ディアヌとともにルディガーを迎えに行くためだ。

「ほら、こうして髪を結って、真珠の髪飾りをつけましょう。上からベールもかけますね」

 黄色のドレスに真珠の髪飾りを合わせる。首の周りにはずっしりとした黄金の首飾り。同じく左手に三本の腕輪を重ねてはめて、唇には薄く紅をさす。

 色を失っている頬に、ジゼルが紅をのせた。ついているかいないかわからないほど薄くそれを伸ばすと、少しだけ血色がよく見える。

 これなら、彼に不必要な心配はさせないですむだろうと安堵した。
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