不器用な殉愛
ヒューゲル侯爵の話を聞いたからだろうか。このところ、記憶にない母の夢をよく見るようになった。
この城の中庭で、ディアヌによく似た顔立ちの年頃の幼女。それから、顔は見えない大人の女性。でも、ディアヌは彼女のことを信頼していて、夢の中では『母様』と呼んでいた。
母の夢をこんなにも見るということは、役目を終える日が近づいているのかもしれない。
それもまた、当然のことかもしれなかった。
今回、ルディガーに対し反旗を翻す兆しのあった貴族はともかく、ルディガーに帰順を誓おうとする者は明らかに増えている。
それは、シュールリトン王家の娘が、ルディガーに権力を与えたということで押さえられた貴族達が、自分から彼に忠誠を誓おうとしていることでもあった。
「本当に、私ってば……落ち着きがないわね」
髪を整え、衣服を整え、立ったり座ったり、窓のところから外を眺めてみたりと忙しい。
彼が不在にしていたのは、わずかひと月。だが、そのひと月が永遠のように思えて——いや、彼が永遠に戻ってこないのではないかと不安に思っていた面もある。
彼が赴いた先では、戦が起こっていたのだから。
「お戻りのようですね。門のところまで行きましょう」
本来ならば、ディアヌのところにはルディガーの帰城を伝える者が来なければならない。だが、ディアヌにはルディガーを出迎える資格はないと思う者も多数いる。
連絡がこないことを見越し、先に動くしかなかった。