不器用な殉愛
「……お出迎えにだなんて図々しい」
「マクシムの娘など、この城からいなくなればいいのに」
廊下を歩いていくと、すれ違った者達から憎しみのこもった目を向けられる。
人間なんて、勝手なものだ。
わずか一年ほど前、ディアヌがルディガーをこの城に招き入れた時には、皆、よくやったとほっとしたのではなかったか。
だが、ディアヌがルディガーと結婚し、この城にとどまることを選んだ後、その目はだんだんと変化していった。
「——勝手なことを」
ジゼルににらまれ、ぶつぶつ言っていた者達がぱっと散らばっていく。
「それでいいのよ。私が目障りな存在になってきたということは、それだけ——陛下の、ルディガーのことを受け入れているということだもの」
彼のもとを離れた後の人生はすべて余生だ。静かに、あの修道院で暮らしていければそれいい。それでいいと思わなければ。
門の前には、城内に居住区をもらっている貴族達がずらりと並んでいた。戻ってくるルディガーを出迎えるために。
そこへディアヌが合流すると、その場の空気が急激に冷たくなったような気がした。
「ディアヌ様、お出迎えにいらしたのですね」
「今日くらいはと思ったから」
ぽつんと立ち尽くすディアヌの隣に来て声をかけてくれたのはヒューゲル侯爵だった。彼は、ディアヌの横に立ったまま、移動しようとはしない。
「私の隣にいて、大丈夫なのですか」
「嫌われているのは、私も同じですからな」
以前、少しだけ話をして以来、ヒューゲル侯爵のディアヌに対する態度に変化があったようにも感じられる。