不器用な殉愛
たしかに、彼も微妙な立ち位置ではあるが——ディアヌの側にいるより、他の貴族達の側にいた方がいいだろうに。
「あの方に似ているあなたを、ここに一人で立たせておくわけにもいかないでしょう。ああ、侍女のジゼルもいますが」
この人が親切にしてくれるのは、どうやら母に似た面差しのためらしい。それでも、この人の隣にいるとほっとする。
味方、とまではいかなくても敵視しない人の隣にいるだけで、この場の空気にも耐えられそうな気がする。
「陛下の——お戻りです!」
先ぶれの声に、皆がわっと歓声を上げた。少しでも早くルディガーの顔を見ようとしているのか、道を開けて待っていたはずなのに、どんどん門の外に出て行ってしまう。
ディアヌはその場にただ、立ち尽くしていた。自分だって、行けるものなら彼を出迎えに行きたい。許されないのもわかっているから——だから。
「侯爵、どうぞあなたは行ってください。きっと陛下も喜ぶでしょう」
「あなたはどうなさるのですか?」
「私は、ここでお待ちします。誰か一人くらいは落ち着いて待つ人がいてもいいでしょう」
馬車が過ぎてきて、歓声がますます大きくなる。多くの人に囲まれ、頭の先しか見えなかったのにそこに彼がたっているとわかった。
だが、近寄ることなんてできるはずもなく、そこに立ち尽くしたまま、ただ待っていた。彼が、この城に足を踏み入れる瞬間を。
「——ディアヌ!」
ようやくもみくちゃにする人の間から抜け出したルディガーは、彼女の姿を認めるなり大声を上げた。