不器用な殉愛
引きとめようとする人を振り払い、勢いよくこちらへと走ってくる。
いけない——わかっているのに、気持ちは止まらなかった。いつの間にかディアヌの足も動き始めていて、そのまま彼の方へと走り寄る。
「今、帰った!」
「お帰りなさい、ルディガー!」
彼との距離は、開けたはずだった。心に蓋をして、少しでも彼への気持ちは封じようとしたはずだった。
それなのに、無事に戻ってきた彼の姿を見たとたん、心は簡単に崩れてしまって、彼の胸に飛び込んでしまう。
「ルディガー、ルディガー、ルディガー……お帰り、なさい……!」
せっかくジゼルに美しく見えるよう装ってもらったのに、顔がぐちゃぐちゃになっているのもわかる。涙もあふれていて、とてもではないが彼の前に見せられるような顔ではなかった。
背中に回される彼の腕。強く抱きしめられて息が止まりそうになる。こんな風に抱きしめられたのは、いつだっただろう。
腕の力強さに、彼の体温に、耳元で名前を呼んでくれる声。その全てに眩暈を起こしそうになった。
おずおずと持ち上がったディアヌの手が、彼の衣服をぎゅっと掴む。だが、その幸福は、すぐに奪い去られることになった。
「今回の件で把握した。ジュールが動き始めたぞ。すぐに対策をとる」
久しぶりに聞く異母兄の名に、背中が冷えた。彼が動き始めたというのなら——この国は、ルディガーはどうなるというのだろう。