不器用な殉愛
今の今まで自分にできることは静かに離れていくことだけだと思っていたのに。事態があまりにも急激に動くものだから、頭の方がついてこない。
「わ、私は……大きな過ちを犯すところで……な、なんとお詫びを申し上げれば……」
膝をついたままの侯爵がようやく口を開いた時、真っ先に出てきたのは謝罪の言葉だった。
「間に合ったんだからいいさ。それに、ディアヌだってあなたの提案に乗る気でいた。まったく——俺の妃は、自分よりまず他人のことを考えるから困る」
困ったと言いながらも、彼の口調はディアヌに対する愛情にあふれていた。
幼い頃、妹にするみたいに頭を撫でてくれた彼。
「ルディガー……私、ここにいても……?」
彼の顔を見上げ、ようやく出てきたのはそれだけ。自分が、父の血を引いていないというのならば——ルディガーの側にいても許されるだろうか。
彼の——伴侶として生涯を共に歩んでも、誰も傷つけないですむだろうか。
「私……あなたを愛しているんです……ずっと、あなたの隣にいても……?」
「当たり前だ」
それを聞いたルディガーは、ディアヌの肩に回した手に力を込める。
「あの時、お前が一切れのパンを与えてくれたから今の俺がいる。お前が俺の運命だったということだ」
運命——本当にあの時の出会いは運命だったのかもしれない。
互いの孤独を埋めあい、未来に一筋の希望を託した。
他者から見れば幼さを残した二人のたわいもない約束だったかもしれないけれど。それでも、互いが必要だった。
それだけは、誰も否定できないはずだ。
「——お前を、愛している」
その言葉と同時に、唇が重ねられる。周囲の人がざわりとしたけれど——初めての口づけの甘さに、それを気にする余裕など失われていた。