不器用な殉愛
「集中を妨げるなって、このくらいで気をそがれていたらすぐに命を落とすぞ」
「うるさいわね! あんたにそんなことを言われたくないわ!」
ますますジゼルはきぃきぃとなった。そんなジゼルに向かって、ルディガーはひらひらと手を振る。
「まあ落ち着けって。戦場じゃ敵に囲まれるんだぞ? 俺の声くらいで気をそがれていては話にならないだろう」
ルディガーは、セヴラン王国の兵士として、つい先日まで戦っていたのだった。それをジゼルも知っているはずなのに、ルディガーに言われると反論したくなるものらしい。
「あんたなんか、私よりずっと弱いくせに!」
ジゼルの言葉に、ルディガーはちょっと不満そうな顔になった。それから、ディアヌの方に手を差し出し、ディアヌの持っていた剣を取り上げる。
「——貸してみろ。俺も剣は使えるんだ」
子供用の剣を手に、ルディガーが笑う。ますますむっとしたジゼルが、彼の方へ一歩踏み込んだけれど、彼はそれをひらりとかわした。
「俺の怪我も、まあまあよくなってきたみたいだな。ジゼル、ちょっと相手をするか?」
「何よ、失礼ねっ!」
ジゼルも稽古用の剣を構える。まさか、二人が打ち合うことになるなんて想像もしていなかったから、ディアヌはおろおろとしてしまった。
鋭い気合と共に、ジゼルが剣を突き出す。
ディアヌの相手をしている時は、その実力の何分の一も出していない。彼女の剣が光を反射し、きらりときらめくのが見えた。
だが、ルディガーはその鋭い突きを、身体を半分回転させることでするりと交わす。